ビクターの犬ニッパーとは

ニッパーという名前を聞くと、ビクターのロゴマークを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
白い体に茶色い耳、そして蓄音機をじっと見つめる姿は、音楽ファンなら一度は目にしたことがあるはずです。
ニッパーは実在した犬で、その姿をもとに描かれた「His Master’s Voice」が、のちに世界的な商標になりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | ニッパー(Nipper) |
| 性別 | オス |
| 生年 | 1884年 |
| 生まれ | イギリス・ブリストル |
| 犬種 | フォックス・テリア系。スムース・フォックス・テリアとされることが多いが血統には諸説あり |
| 名前の由来 | 人の脚などを「nip=軽く噛む」癖があったことから名付けられたとされる |
| 有名になった理由 | 「His Master’s Voice」のモデルになったため |
ニッパーの生い立ち
ニッパーは1884年にイギリスのブリストルで生まれた犬です。
犬種については資料によって表現が異なり、フォックス・テリア系、スムース・フォックス・テリア、あるいはテリア系のミックスと説明されています。
はっきりしているのは、のちに世界中で知られるあの犬が、もともとは一家庭で暮らしていた実在の犬だったということです。
名前の由来には、彼がやんちゃで、人の脚の後ろを「nip(軽く噛む)」ことがあったためという説があります。
蓄音機の前で静かに首をかしげている有名な姿からは想像しにくいですが、かなり活発な犬だったようです。
フランシス・バラウドとの出会い

ニッパーの最初の飼い主はマーク・ヘンリー・バラウドでした。
マークが亡くなったあと、ニッパーは兄弟のフランシス・バラウドらに引き取られます。
画家だったフランシスは、ニッパーが蓄音機の音に耳を傾ける姿に強く心を動かされました。
30秒でわかるニッパー
ビクター犬ニッパーの7ポイント
- 名前はニッパー
- 1884年にイギリスで生まれた実在の犬
- フォックス・テリア系とされる
- スムース・フォックス・テリア説がよく知られている
- 血統には諸説あり、断定はできない
- 亡き主人の声を聞く姿が絵のモチーフになった
- 絵の題名は「His Master’s Voice」
ビクターの犬ニッパーは何犬

ニッパーの犬種については、長年にわたってさまざまな説が語られてきました。
見た目から「スムース・フォックス・テリア」とされることが多い一方、テリア系のミックスだったとする資料もあります。
そのため、「ニッパーはスムース・フォックス・テリアです」と断定するより、「フォックス・テリア系で、正確な血統には諸説がある」とするのがわかりやすいでしょう。
ニッパーはフォックス・テリア系
ビクターの公式サイトでは、ニッパーを「フォックス・テリア」と紹介しています。
白を基調とした短い被毛、細身で引き締まった体、茶色い耳などは、フォックス・テリアを思わせる特徴です。
一方で当時の血統を現在の犬種区分だけで明確に決めるのは難しく、資料によって表現に差があります。
スムース・フォックス・テリアの特徴
フォックス・テリアは、イギリスでキツネ狩りに使われてきたテリアです。
スムース・フォックス・テリアは短く滑らかな毛と、引き締まった体型が特徴です。
活発で好奇心が強く、遊び好きな性格を持つ犬として知られています。
ニッパーの「人の脚をnipした」という名前の由来も、こうしたテリアらしい活発さを感じさせるエピソードです。
ブル・テリアなどの血が入っていた説もある
ニッパーについては、スムース・フォックス・テリアだけでなく、ブル・テリアなど別のテリアの血が入ったミックス犬だったという説もあります。
写真や絵だけから犬種を断定することはできません。
「スムース・フォックス・テリアに見える」ということと、「純血のスムース・フォックス・テリアだった」ということは分けて考えた方がよいでしょう。
ニッパーはダルメシアンではない
白い体と茶色い耳という印象から、ニッパーをダルメシアンだと思っていた人もいるようです。
しかし、ダルメシアンのような斑点はなく、体型や頭部の形も大きく異なります。
ニッパーはフォックス・テリア系の犬として紹介されるのが一般的です。
ニッパーと犬種候補を比較
| 比較 | ニッパー | スムース・フォックス・テリア | ブル・テリア |
|---|---|---|---|
| 被毛 | 短毛 | 短く滑らか | 短く滑らか |
| 体型 | 引き締まって見える | 細身で筋肉質 | がっしりした筋肉質 |
| ニッパーとの関係 | 実在犬 | 有力な犬種説 | 血統に含まれた可能性を挙げる説あり |
スムース・フォックス・テリアはいま英国でも希少
かつてイギリスで人気を集めたスムース・フォックス・テリアですが、現在は英国で登録頭数の少ない在来犬種のひとつになっています。
英国のRoyal Kennel Clubは、2024年に登録されたスムース・フォックス・テリアの子犬が45頭だったと2025年に発表しています。
ニッパーのモデルとして世界中に知られる犬種が、いまでは希少な存在になっているのは少し意外ですね。
参考:The Royal Kennel Club
ニッパーはなぜ蓄音機を見ているの

ニッパーの有名な姿には、「亡くなった主人の声」という物語があります。
ただ蓄音機を不思議そうに見ている犬ではなく、主人の声が聞こえてくる場所に耳を傾けている、というのが「His Master’s Voice」の中心にあるストーリーです。
最初の飼い主マークが亡くなった
ニッパーをかわいがっていた最初の飼い主マーク・ヘンリー・バラウドは、ニッパーより先に亡くなりました。
その後、ニッパーはマークの兄弟フランシスらに引き取られます。
フランシスは画家で、のちにニッパーの姿を一枚の絵として残すことになります。
蓄音機から亡き主人の声が聞こえた
ビクター公式に伝えられている由来では、家にあった蓄音機で、かつて録音されたマークの声を聞かせたところ、ニッパーがラッパの前で耳を傾けたとされています。
その姿が、まるで亡き主人の声を懐かしそうに聞いているように見えたのでしょう。
フランシスはこの場面に心を動かされ、ニッパーと蓄音機を描きました。
「His Master’s Voice」の意味
絵につけられた「His Master’s Voice」は、日本語にすると「彼の主人の声」という意味です。
犬が主人の声を聞き分けようとしているという、絵の物語そのものを表した題名ですね。
この言葉はのちに「HMV」の名称にもつながっていきます。
この話は本当なの
ニッパーが亡き主人の声に耳を傾けたという話は、現在もVictor公式が「ビクターマークの由来」として紹介しているエピソードです。
一方で、原画の制作年など細かな部分には資料によって表記の違いがあります。
そのため、「ニッパーと亡き主人の声」という物語はマークの公式な由来として伝えられているものの、細部まで同じ形で記録された出来事と考えるより、作品に受け継がれてきたエピソードとして読むのがよいでしょう。
参考:Victor「ビクターマークの由来」
ニッパーはどうしてビクターのマークになったの

ニッパーは単なる一匹の犬ではなく、レコードと蓄音機の歴史を象徴する存在になりました。
ただし、最初から現在よく知られている「犬と円盤式グラモフォン」の絵だったわけではありません。
ここを知ると、ニッパーがビクターのマークになるまでの流れがずっとわかりやすくなります。
最初の絵では円筒式の蓄音機だった
フランシスが最初に描いた絵には、録音と再生ができるシリンダー式の蓄音機が描かれていました。
その後、絵を購入することになるThe Gramophone Company側から、自社の円盤式グラモフォンへ描き替えることが求められ、現在よく知られる構図へ変わっていきました。
つまり、有名なニッパーマークは、絵画作品であると同時に、当時の新しい音響機器を象徴する広告図像でもあったわけです。
ニッパーの絵が商標になるまで
ニッパーが蓄音機の音に耳を傾ける
↓
フランシス・バラウドが絵にする
↓
円筒式蓄音機から円盤式グラモフォンへ描き替える
↓
「His Master’s Voice」として商標に使われる
↓
ビクター、RCA、日本ビクターへ広がる
1899年にThe Gramophone Companyが絵を購入
フランシスは絵をすぐに商標として売ることができたわけではありません。
転機になったのは1899年で、The Gramophone Companyが絵と著作権を買い取り、描かれていた蓄音機を自社のグラモフォンに変更するよう求めました。
その後、エミール・ベルリナーがこの図像を商標として登録し、米国ではVictor Talking Machine Companyへ受け継がれていきます。
ニッパーの年表
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 1884年 | ニッパーがイギリスで生まれる |
| 1887年 | 最初の飼い主マークが亡くなる |
| 1895年 | ニッパーが亡くなる |
| 19世紀末 | フランシスがニッパーをモデルに絵を制作 |
| 1899年 | The Gramophone Companyが絵と権利を購入 |
| 1900年ごろ | 「His Master’s Voice」の図像が商標として広がる |
| その後 | Victor、RCA、日本ビクターなどで長く親しまれる |
HMVやRCAでのロゴ採用
「His Master’s Voice」は一枚の絵から始まりました。
やがて「His Master’s Voice」の頭文字を取ったHMVの名称でも知られるようになり、アメリカではRCA系のレコードや音響事業でもニッパーの図像が親しまれました。
「犬が音を聞く」というシンプルな構図は、録音された音のリアルさを直感的に伝えるマークとして非常に強かったのでしょう。
日本ビクターでのニッパーの位置づけ
日本ビクター、現在のJVCケンウッドでもニッパーは重要な存在です。
日本では「犬のマーク」として長く親しまれ、レコードや蓄音機、オーディオ製品の歴史と結びついてきました。
JVCケンウッドは現在もこの「犬のマーク」をVictorブランドの象徴として紹介しています。
ニッパーがもたらしたブランドイメージ
「ご主人の声をじっと聞く犬」というイメージは、録音された音を忠実に再生するというオーディオの価値と相性のよいものでした。
ニッパーのマークを見るだけで、レコードや蓄音機、ビクターを連想する人が多いのも、それだけ長く使われてきたからでしょう。
単なるかわいい犬のマスコットではなく、音の歴史そのものと結びついた存在になっています。
ニッパーにまつわるエピソードと現在

ニッパーはロゴマークの犬として有名ですが、実在した犬としての生涯や、後世に生まれたキャラクター、グッズなどにもさまざまなエピソードがあります。
ここでは、ニッパーのやんちゃな一面から現在までをまとめて紹介します。
ニッパーのやんちゃな性格
ニッパーという名前の由来にもなっている通り、彼はかなりのやんちゃ犬だったと伝えられています。
「nip」とは英語で「軽く噛む」「つまむ」という意味です。
来客の脚の後ろを噛もうとしたことからニッパーと呼ばれるようになったという説明がよく知られています。
蓄音機の前でじっと耳を傾ける姿とのギャップも、ニッパーの面白さですね。
世界各地でのニッパー像
ニッパーの人気は世界中に広がり、現在もさまざまな場所で彼をかたどった像や看板を見ることができます。
特にアメリカには大きなニッパー像が残る場所があり、古いレコード産業やRCAの歴史を伝えるランドマークになっています。
日本でもビクターゆかりの展示やグッズでニッパーに出会うことがあります。
現代のビクターとニッパー

音楽はレコードからCD、配信へと大きく変わりましたが、ニッパーは現在もVictorブランドを語るうえで欠かせない存在です。
JVCケンウッドは「犬のマーク」を日本で登録商標として保全しており、ニッパーを使った企画や商品展開も続いています。
一世紀以上前の絵から生まれた犬が、デジタル時代にもブランドキャラクターとして生きているわけです。
ニッパーが影響を与えたキャラクターや広告表現
ニッパーの「音の出るものへ耳を傾ける犬」という構図は、とてもわかりやすく、長い間さまざまな広告やパロディの題材にされてきました。
犬と蓄音機を並べるだけで元ネタが伝わるほど、図像そのものが広く知られているのです。
このあと紹介するパロディの多さからも、ニッパーのデザインが文化的なアイコンになったことがわかります。
ファンコミュニティとコレクション
ニッパーには根強いファンがいて、古いレコード、蓄音機、陶器の置物、広告物などを集めるコレクターもいます。
とくに古いビクター製品やHMV関連の品は、音楽史と広告史の両方を感じられるアイテムです。
単なる犬グッズではなく、時代を映す資料として集めている人も少なくありません。
ニッパーと一緒にいる仔犬チッパーとは

※出典 https://unikk-antiques.com/32919/
1991年から、ニッパーのほかに「チッパー(Chipper)」と呼ばれる仔犬キャラクターが登場しています。
「ニッパーの子供」と紹介されることがありますが、実在したニッパーの血統上の子供という意味ではなく、広告上のキャラクターとして考えるのがわかりやすいでしょう。
ニッパーといえば、ワイヤーを切る工具もニッパーですが、その小型を「チッパー」と名付けた商品もあります。
→トップ(TOP) ステンレスミニニッパ チッパー TP-100
大きなニッパーと小さなチッパー。
名前の組み合わせもかわいいですね。
Nipper and Chipper 動画
なんと、「ニッパーくんとチッパーくん」が宇宙に行きます!
https://www.youtube.com/watch?v=lP49L3M1G9E
ニッパーのその後
ニッパーは1895年に息を引き取りました。
生まれはイギリスのブリストルですが、のちにキングストン・アポン・テムズに埋葬されたと伝えられています。
埋葬場所周辺はその後開発され、現在は当時の姿を見ることはできませんが、ニッパーを記念するプレートなどによってその存在が伝えられています。
「His Master’s Voice」はパロディの宝庫
「His Master’s Voice」の絵は一世紀以上にわたって知られてきたため、この構図を元ネタにしたパロディは枚挙にいとまがありません。
オリジナルは主人の声を聞く犬という感動的なエピソードですが、「His Master’s Voice」という言葉自体が「主人の声に従う」という別の意味にも読めるため、政治風刺などにも使われてきました。
ここでは、いくつか紹介します。
犬種が違う

※出典 https://www.deviantart.com/hankai/art/Pug-and-His-Master-s-Voice-374413200
フォックス・テリアではなく、「パグ」ですね。
でもパグも飼い主の声をじっと聴きそうです。
エリザベスカラー

※出典 https://www.pinterest.jp/pin/213358101081842848/?lp=true
これ、集音しちゃうからものすごく聴こえると思います。
それだけ飼い主を偲んでるんですね。
馬耳東風

「労働者」「86回会議」という文字を見ると、労働者の集会を表しているのでしょうが、あまり肯定的な意味ではなさそうです。
とにかく税金

※出典 http://www.original-political-cartoon.com/cartoon-gallery/buy/his-masters-voice/3548/
マスター、つまり政府から納税を言われる市民を表した風刺でしょうか。
有名な構図だけに、こうした政治的な意味にも置き換えやすいんですね。
骸骨になっても

※出典 画像出典
死んでも「マスター」の声を聴き続ける、というブラックユーモアですね。
「ウォレスとグルミット」

※出典 http://www.thepaepae.com/his-masters-voice/10444/
「ウォレスとグルミット」のグルミットも聴いてます!
ウェブサイトがご主人

※出典 https://www.cartoonstock.com/directory/h/his_master_s_voice.asp
いまやビッグブラザーはウェブサイト。
時代が変われば、蓄音機から聞こえてくる「主人の声」の意味も変わるというわけですね。
ニッパーグッズが買えるのは
このように一世紀以上にわたって親しまれているニッパーには、さまざまなグッズがあります。
置物やレコード関連グッズなどは、ニッパーの歴史そのものを楽しめるコレクションでもあります。
ニッパーのオフィシャルグッズ
いろんなところのネットショップで購入できますが、公式グッズを扱うショップとして「Jamaru」があります。
ニッパー オフィシャルストア
一つのショップになっちゃうニッパーくん、すごいですね!
ニッパーらしい定番グッズを選ぶなら、まず陶器の置物でしょう。
「His Master’s Voice」のニッパーを立体で楽しめるので、オーディオのそばに置くのも似合います。
ニッパーグッズは蓄音機付きがあったら買い

※写真 https://ekizo.mandarake.co.jp/auction/item/itemInfoJa.html?index=301819
ニッパーグッズは公式ショップの「Jamaru」でも手に入るし、アマゾンに出品されるものも多いですね。
でも公式ショップにもアマゾンにもなかなかないものがあります。
それは「蓄音機つきの立体」です。
陶器などの立体ものはニッパーだけのものも多いのですが、蓄音機がないと、なぜか首をひねっているフォックス・テリアに見えてしまいます。
別の蓄音機を買って組み合わせても、縮尺が合うとは限りません。
だからこそ、ニッパーと蓄音機が一緒になった古い置物やオルゴールには独特の魅力があります。
見つけたときは、状態や価格を確認したうえでコレクション候補にしてもいいですね。
公式ショップにもアマゾンにもなかなかないものがあります。
それは「蓄音機つきの立体」です。
ビクターの犬ニッパーのFAQとまとめ
ビクターの犬は何犬ですか?
フォックス・テリア系の犬です。
スムース・フォックス・テリアとされることが多いものの、当時の正確な血統には諸説があります。
ビクターの犬の名前は何ですか?
名前はニッパー(Nipper)です。
人の脚などを「nip=軽く噛む」癖があったことから名付けられたとされています。
ニッパーはダルメシアンですか?
ダルメシアンではありません。
ニッパーはフォックス・テリア系の犬として紹介されています。
ニッパーはなぜ蓄音機を見ているのですか?
亡くなった最初の飼い主マークの声が録音された蓄音機に耳を傾けた姿が、絵の由来として伝えられているためです。
その姿をフランシス・バラウドが絵にし、「His Master’s Voice」と名付けました。
HMVは何の略ですか?
「His Master’s Voice」の頭文字です。
日本語では「彼の主人の声」という意味になります。
チッパーはニッパーの本当の子供ですか?
チッパーは1991年からニッパーと一緒に登場した仔犬キャラクターです。
「ニッパーの子供」と表現されることがありますが、実在したニッパーの血統上の子供という意味ではありません。
まとめ
ビクターの犬ニッパーは、1884年にイギリスで生まれた実在のフォックス・テリア系の犬です。
スムース・フォックス・テリアとされることが多いものの、正確な血統については諸説あります。
亡き主人の声を蓄音機から聞く姿が「His Master’s Voice」のモデルとなり、円筒式の蓄音機から円盤式グラモフォンへの描き替えを経て、ビクターやHMV、RCAなどと結びつく世界的な図像になりました。
静かに耳を傾ける一枚の絵の向こうに、実在したやんちゃな犬と、録音技術が生まれた時代の物語があるところが、ニッパーが今も愛される理由なのかもしれません。


コメント