かつて世界には、今では見ることのできない犬種が数多く存在していました。
肉を焼くために働いていた犬、美しい毛並みで人気を集めた犬、そして日本の山々で猟師と暮らしていた犬。
犬たちが姿を消した理由には、人間の暮らしの変化が深く関わっています。
この記事では、絶滅した犬種12種類と日本で姿を消した犬たちを紹介します。
それぞれの特徴や歴史、絶滅した理由を知ると、犬と人間が歩んできた長い時間が見えてきます。
絶滅した犬種一覧|かつて存在した12種類の犬たち
絶滅した犬種には、狩猟犬や牧羊犬だけでなく、料理や羊毛の生産を助ける犬もいました。
まずは12種類の犬たちの原産地と役割を一覧で見てみましょう。
※写真は文献から起こした推測です。

| 犬種 | 主な地域 | かつての役割 |
|---|---|---|
| クライズデール・テリア | スコットランド | 愛玩犬・ショードッグ |
| サザン・ハウンド | イギリス | 狩猟犬 |
| タルボット・ハウンド | 中世イングランドなど | 狩猟犬 |
| ターンスピット・ドッグ | イギリス | 肉焼き器の動力 |
| コルドバ・ドッグ | アルゼンチン | 闘犬 |
| セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ | カナダ | 漁業の補助 |
| ツイード・ウォーター・スパニエル | スコットランド | 水鳥猟 |
| イングリッシュ・ホワイト・テリア | イギリス | 愛玩犬・ショードッグ |
| ハワイアン・ポイ・ドッグ | ハワイ | 食用・文化的な飼育 |
| サリッシュ・ウール・ドッグ | 北米北西部 | 毛の生産 |
| クリ | ニュージーランド | マオリの人々の生活 |
| アルパイン・マスティフ | アルプス地域 | 山岳地帯での作業 |
※古い犬種には記録が少なく、原産地や血統、絶滅時期について諸説があるものも含まれます。
クライズデール・テリアとサザン・ハウンド
クライズデール・テリア

クライズデール・テリアは、スコットランドで生まれた小型のテリアです。
ペイズリー・テリアとも呼ばれ、長く美しい被毛が特徴でした。
主に愛玩犬やショードッグとして飼育され、現在のヨークシャー・テリアの成立にも関わったとされています。
しかし、犬種の人気や繁殖の方向性が変化するなかで、独立した犬種としては姿を消しました。
サザン・ハウンド

サザン・ハウンドは、イギリスで狩猟に使われていた犬種です。
優れた嗅覚を持ち、獲物のにおいを追いながら狩りをすることを得意としていました。
比較的ゆっくりと獲物を追うタイプで、低く響く声も特徴だったと伝えられています。
その後、狩猟方法の変化や他の猟犬との交配が進み、19世紀ごろまでに独立した犬種としての姿を失ったと考えられています。
タルボット・ハウンドとターンスピット・ドッグ
タルボット・ハウンド

タルボット・ハウンドは、中世イングランドで知られていた狩猟犬です。
白い被毛と長く垂れた耳を持つ犬として、当時の絵画や紋章にも姿が残っています。
貴族の狩猟文化と関係が深く、現在のビーグルやブラッドハウンドの祖先に関わる犬だったとも考えられています。
ただし、詳しい起源や血統については不明な点が多く、特定の現存犬種との直接的な関係は確定していません。
ターンスピット・ドッグ

ターンスピット・ドッグは、厨房で働くために飼育されていた犬です。
短い脚と長い胴体を持ち、車輪の中を走ることで肉焼き器を回転させていました。
人間の食事を作るために、犬が動力として働いていたのです。
しかし、肉を回転させる機械が普及すると、その役割は失われました。
仕事のために必要とされていた犬種は、仕事そのものがなくなることで飼育されなくなり、やがて絶滅しました。
詳しくは「ターンスピット「産業革命」が殺した犬 絶滅した犬種」で紹介しています。
コルドバ・ドッグとセント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ
コルドバ・ドッグ

コルドバ・ドッグは、アルゼンチンのコルドバ地方で闘犬として作り出された犬です。
筋肉質で力強い体を持ち、白い被毛の個体が多かったと伝えられています。
闘犬文化の衰退や、他の犬種を作り出すための交配などが重なり、独立した犬種としては姿を消しました。
一方、その血統は現在のドゴ・アルヘンティーノの成立に利用されています。
セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ

セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグは、カナダのニューファンドランド島で漁師と暮らしていた犬です。
水に強く、漁網や道具を運ぶ仕事などを手伝っていたとされています。
短く密集した被毛と泳ぐ能力を持ち、現在のラブラドール・レトリーバーの祖先として知られています。
現代の犬種に大きな影響を残しましたが、元の犬種そのものは20世紀に姿を消しました。
ツイード・ウォーター・スパニエルなど6種類

スコットランドとイングランドの境界を流れるツイード川周辺で飼育されていた、水辺での仕事が得意な犬です。
水鳥の回収などに使われ、ゴールデン・レトリーバーの成立にも関わったとされています。
イングリッシュ・ホワイト・テリア

19世紀のイギリスで作出された、白い被毛を持つテリアです。
整った外見を重視した繁殖が行われましたが、犬種として広く定着することなく姿を消しました。
ハワイアン・ポイ・ドッグ

ハワイの人々と暮らしていた犬で、タロイモを原料とするポイなどを与えられていました。
食用や地域文化の一部として飼育されていましたが、生活習慣の変化や他の犬との交配によって、独立した犬種としては失われました。
サリッシュ・ウール・ドッグ

北米北西部の先住民が、毛を織物に利用するために飼育していた犬です。
白く長い被毛を持ち、その毛は毛布などの材料になりました。
交易や生活文化の変化によって役割を失い、姿を消しました。
クリ

クリは、ポリネシアからニュージーランドに渡った人々によって持ち込まれた犬です。
マオリの人々の暮らしのなかで、食用などさまざまな役割を担っていました。
ヨーロッパ人の到来以降、他の犬との交配や生活様式の変化が進み、独立した犬種としては絶滅しました。
アルパイン・マスティフ

アルパイン・マスティフは、ヨーロッパのアルプス地域で知られていた大型犬です。
山岳地帯での作業や護衛などに関係していたとされ、セント・バーナードの歴史とも結びつけられています。
現在では独立した犬種として存在していません。
日本で絶滅した犬種にはどんな犬がいた?
海外だけでなく、日本でも姿を消した犬がいます。
かつて日本各地には、その土地の気候や狩猟文化に適応した犬たちが暮らしていました。
しかし、戦争や交雑、飼育環境の変化によって、昔ながらの血統を維持できなくなった例があります。
越の犬|天然記念物に指定されながら姿を消した日本犬

越の犬(こしのいぬ)は、富山県、石川県、福井県などの北陸地方で飼育されていた日本犬です。
1934年には国の天然記念物に指定されました。
中型でがっしりとした体つきを持ち、立ち耳や厚い被毛が特徴だったと伝えられています。
主に山間部で猟犬として活躍していましたが、戦争や他の犬との交配などによって数が減り、1970年代には純粋な血統が失われたとされています。
天然記念物に指定されていても、犬種の存続が必ず保証されるわけではなかったのです。
高安犬|物語にも残された幻の日本犬

高安犬(こうやすいぬ)は、山形県高畠町の高安地区で飼育されていた日本犬です。
中型で力強い体つきを持ち、主に番犬や熊などの狩猟に使われていました。
作家の戸川幸夫による『高安犬物語』にも登場し、最後の純血犬とされた「チン」の物語が知られています。
現在では純粋な高安犬の血統は失われたと考えられています。
かつて地域の暮らしを支えた犬の存在が、文学を通して現代にも伝えられています。
日本犬はなぜ姿を消していったのか
日本には、柴犬や秋田犬など現在も知られている犬種のほかに、各地の名前で呼ばれる地域固有の犬がいました。
こうした犬たちは、必ずしも現代のように明確な血統登録によって区分されていたわけではありません。
しかし、外来犬との交配が進むと、その土地で受け継がれてきた特徴が次第に失われていきました。
地域固有の犬の絶滅を考える際には、個体数の減少だけでなく、血統や特徴の変化にも目を向ける必要があります。
今も残る日本犬との違い
現在、国の天然記念物に指定されている日本犬には、秋田犬、甲斐犬、紀州犬、柴犬、四国犬、北海道犬があります。
これら6犬種は、保存活動によって現在も血統が受け継がれています。
一方、越の犬のように、同じく天然記念物に指定されながらも姿を消した犬種があります。
犬種を守るには、指定や認知だけでなく、継続的な繁殖と適切な飼育環境が必要なのです。
犬種はなぜ絶滅してしまうの?
犬種の絶滅には、さまざまな原因があります。
野生動物とは異なり、犬は人間が繁殖や飼育を管理してきた動物です。
そのため、人間の仕事や生活、価値観が変化すると、犬種そのものの存続にも大きな影響が及びます。

仕事がなくなり、飼育されなくなった
絶滅した犬種のなかには、特定の仕事のために繁殖されていた犬が少なくありません。
ターンスピット・ドッグは肉焼き器を動かし、サリッシュ・ウール・ドッグは織物用の毛を提供していました。
しかし、新しい技術や材料が登場すると、犬に頼る必要がなくなります。
仕事を失った犬たちは、次第に繁殖されなくなり、独立した犬種として姿を消していったのです。
他の犬種との交配が進んだ
犬種の絶滅は、すべての個体が突然いなくなることだけを意味するわけではありません。
他の犬種との交配が続き、元の犬種としての特徴や血統を維持できなくなる場合もあります。
例えば、サザン・ハウンドや日本の地域固有犬には、こうした経緯が関わっていると考えられています。
元の犬種が消えても、その遺伝的な特徴の一部が別の犬に残っている可能性はあります。
戦争や社会の変化で頭数が減った
戦争や経済的な混乱は、犬種の存続にも影響します。
犬を飼うための食料や生活環境が不足すれば、繁殖を続けることが難しくなります。
特に頭数の少ない犬種では、わずかな減少が大きな問題になります。
飼育する人がいなくなったり、繁殖可能な犬が少なくなったりすると、犬種を維持することが難しくなるのです。
人気の変化によって繁殖が途絶えた
犬種の人気も存続に関わります。
クライズデール・テリアのように、かつて人気を集めていた犬でも、別の犬種が注目されると飼育数が減ることがあります。
新しい犬種を作るための交配によって、元の犬種が失われることもあります。
特定の特徴を残そうとする繁殖が行われなければ、犬種は次の世代へ受け継がれなくなるのです。
絶滅した犬種の血統は今も残っている?
絶滅した犬種のなかには、現在の人気犬種の成立に関わった犬もいます。
犬種としては消えてしまっても、別の犬種の祖先として名前が残っている場合があるのです。
ただし、歴史的な血統関係には記録が不十分なものもあり、すべてが遺伝子解析によって確認されているわけではありません。

ヨークシャー・テリアに受け継がれた特徴
クライズデール・テリアは、現在のヨークシャー・テリアの成立に関わった犬種の一つとされています。
長く美しい被毛を持つ小型犬という特徴には、共通する部分があります。
もちろん、現代のヨークシャー・テリアがそのままクライズデール・テリアになったわけではありません。
複数の犬種による交配や選択的な繁殖を経て、現在の姿になったと考えられています。
レトリーバーの祖先にも絶滅犬種がいる
現在のラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーにも、絶滅した犬種が関わっています。
セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグはラブラドール・レトリーバーの祖先として知られています。
また、ツイード・ウォーター・スパニエルはゴールデン・レトリーバーの成立に利用された犬種です。
現在の家庭犬の歴史をたどると、すでに姿を消した犬たちの存在に行き着くことがあります。
絶滅犬種は復活できるの?
かつての犬種に似た外見や能力を持つ犬を、選択的な繁殖によって作り出そうとする試みはあります。
しかし、昔の犬種に似た犬を作ることと、失われた犬種を完全に復活させることは同じではありません。
過去の犬が持っていた遺伝的な特徴をすべて再現することは非常に難しいからです。
外見だけが似ていても、同じ血統や遺伝的構成を持つとは限らないのです。
現在の犬種を守るために必要なこと
犬種を長く残すためには、単に数を増やすだけでなく、健康や遺伝的な多様性にも配慮する必要があります。
限られた個体だけで繁殖を続けると、遺伝的な多様性が低下するおそれがあります。
また、見た目の流行だけを優先した繁殖が健康上の問題を生む場合もあります。
犬種の歴史を学ぶことは、現在の犬たちにとって望ましい繁殖や飼育のあり方を考えることにもつながります。
絶滅犬種についてよくある疑問
絶滅した犬について調べると、「世界に何種類いたのか」「本当にすべていなくなったのか」といった疑問が浮かびます。
ここでは、絶滅犬種について特に気になる4つの疑問を整理します。

絶滅した犬種は世界に何種類あるの?
正確な総数はわかっていません。
犬種の分類方法や歴史的な記録には違いがあり、正式な血統登録が始まる前に姿を消した犬もいるためです。
また、ある地域で独立した犬種とされていたものが、別の地域では他の犬種の一系統として扱われる場合もあります。
そのため、絶滅犬種の一覧に掲載された数を、そのまま世界の絶滅犬種の総数とすることはできません。
絶滅した犬種と絶滅危惧犬種は違うの?
違います。
絶滅犬種は、独立した犬種としての血統がすでに失われたと考えられる犬です。
一方、絶滅危惧犬種は、現在も存在しているものの、登録頭数や繁殖数が少なく、将来的な存続が心配される犬種です。
例えば、イギリスのケネルクラブでは、登録頭数の少ない在来犬種を保護の対象として紹介しています。
絶滅した犬と、これから守る必要がある犬は区別して考えることが大切です。
絶滅した犬種の写真や標本は残っているの?
犬種によっては残っています。
比較的新しい時代まで存在していた犬には写真があり、それ以前の犬についても絵画や版画、文献などから姿を知ることができます。
例えば、ターンスピット・ドッグの剥製は、イギリス・ウェールズのアバーガヴェニー博物館に保存されています。
ただし、古い犬種については資料が少なく、実際にどのような姿をしていたのか正確にはわからない場合もあります。
今後も犬種が絶滅する可能性はあるの?
可能性はあります。
現在も、登録頭数が少なく、存続が心配されている犬種があります。
犬種を維持するには、繁殖可能な個体と、その特徴や健康を考えて繁殖を続ける人々が必要です。
ただし、珍しい犬種だからという理由だけで、無理に繁殖を増やすことが望ましいとは限りません。
犬の健康や暮らしやすさを第一に考えながら、犬種の多様性を守っていくことが重要です。
まとめ|絶滅した犬たちが教えてくれること

絶滅した犬種の歴史には、人間の暮らしの変化が深く関わっています。
厨房で肉焼き器を回していたターンスピット・ドッグ、漁師を助けていたセント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ、そして日本の山々で猟師と暮らしていた越の犬や高安犬。
それぞれの犬には、必要とされた時代と役割がありました。
しかし、仕事や生活様式が変化すると、犬種そのものが姿を消してしまうことがあります。
一方、絶滅した犬種の特徴が、現在の犬種のなかに受け継がれている例もあります。
犬種の絶滅は、単に珍しい犬がいなくなったという話ではありません。
犬と人間がどのように関わり、どのような暮らしを築いてきたのかを物語る歴史でもあるのです。
今そばにいる犬たちとの関係を大切にすることも、こうした歴史から学べることの一つかもしれません。


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