昭和の時代を覚えている方なら、絶対記憶の片隅にあるはずです。
「ビクター」のトレードマークであった「蓄音機と犬」のイラスト。
なんだか「よい暮らし」をしている象徴のように感じたものですが、あのトレードマークの由来を知っていますか?
あの犬のトレードマークはイギリスの画家によって書かれたものが由来になります。その絵のタイトルは「His Master’s Voice」。
絵のモデルになった犬の名前は1884年に生まれた「ニッパー」(人間の足をやたらに噛むためそう名付けられたそうです)。
犬種はフォックス・テリア系の雑種で、あの絵のイメージと実際は随分違ったそうですよ。
「ニッパー」の飼い主は「フランシス・バロウド」というイギリスの画家です。
しかし、もともとは彼の兄であるマークがかっていた犬でした。
マークが亡くなり、フランシスが「ニッパー」を引き取ったのでした。
※出典https://plaza.rakuten.co.jp/bandoumusha/diary/200703160000/
ある日、フランシスの家にあった蓄音機で「ニッパー」に兄の声を聞かせて見ると、「ニッパー」は熱心に耳を傾け、もうすでに亡くなってしまった主人の声に聞き入っていたのです。
その姿に心を動かされたフランシスが「His Master’s Voice」を書き上げました。
絵はもともと、エジソンが発明した円筒型蓄音機「フォノグラフ」を聴く姿で描かれていたんですね。
そこでフランシス・バロウドはこれを「フォノグラフ」の製造・販売をするエジソン・ベル社に持ち込んだところ、「犬は蓄音機を聴かない」と拒否されてしまったんだそうです。いやー、身もふたもないですね(笑
しかし諦めきれなかった彼は、今度はレコード盤を再生する円盤式蓄音機「グラモフォン」を製造・販売するイギリスのベルリーナ・グラモフォン社に持ち込んだんですねー。
すると円盤式蓄音器の発明者の、「エミール・ベルリナー」は、ニッパーの姿に感動して、そのまま「米国ビクタートーキングマシーン」の商標として使用したそうです。もちろん、蓄音機の部分は書き直したんでしょうね。
この「米国ビクタートーキングマシーン」は日本ビクター(現在は「JVCケンウッド」)の親会社だったんです。
こんなエピソードを知ると、音響機器ブランドであった「ビクター」にふさわしい由来だなあと思いますね。
※出典https://brokegirlinthecity.com/hmv-administration-2018/
このマークの由来になった「His Master’s Voice」ですが、頭文字を取ると「HMV」ですね。そうです。残念なことに先ごろイギリスで二度目の会社破綻となってしまったCD販売の「HMV」です。
日本では「イケてる洋楽のレコード店」ってイメージですよね。
日本の「HMV」のロゴでは「ニッパー」を省いた蓄音機だけになっているので、多くの人は気がつかないのですが、実は両者は同じロゴを使っているのです。
「え? 違う会社なのに同じロゴ?」と不思議に思いますよね。
「ビクター」も「HMV」もベルリーナ・グラモフォン社という同じ先祖を持つ会社のため、ロゴにも同じ意匠を使っているのだそうですよ。
まあ、それでも普通に考えれば別会社になった時にロゴ変えそうなものですけどね。
それでも変えたくないくらいに感動的なエピソードだったんですね。
では「ニッパーくん」の犬種はなんでしょうか?
どうもミックスのようなのですが、フォックステリア系(一説ではジャックラッセルテリア)でブルテリアが少し入っているようです。
サイズは小型犬で体高23〜30㎝。体重は4〜6kgくらいです。
白色をベースに大きな斑が入るのですが、「ニッパーくん」は耳が真っ黒、体は真っ白ですね。
ジャックラッセルは断尾されることが多いようですが、ニッパーくんが断尾しているのかどうか、絵はもちろん、立体を見ても今ひとつはっきりしませんね。
ジャックラッセルテリアは強い「テリア気質」を持つ犬種なんですねー。
猟欲と好奇心が強く、活発で運動能力が高い、頑固で負けず嫌いな性格。
「ニッパーくん」を彷彿とさせるのは、ジャックラッセルテリアは飼い主以外の人間に従うことは少ない典型的なワンマンズ・ドッグだということです。実際「ワンマンズ・ドッグ」で検索するとジャックラッセルテリアが出てきます。
それだけ飼い主に忠実なんですね。
ジャックラッセルのしつけの難易度は最高レベル。
一部では「ジャックラッセルテロリスト」という剣呑なあだ名を頂戴しており、しつけに失敗すると暴君と化す犬のようですね。
見た目の可愛らしさとは裏腹に底なしの体力を持っているので、それに見合った運動をさせるのはなかなか大変なことじゃないでしょうか。
外見だけ見てジャックラッセルを飼い始めた飼い主が持て余し、飼育放棄をすることも多いようで、保健所にしばしば持ち込まれる犬種でもあるそうです。
うーん、人の足に噛み付いてばかりの「ニッパーくん」のイメージ、ありますね。
一方で「ワンマンズ・ドッグ」の飼い主への忠誠ぶりも「His Master’s Voice」のイメージに重なります。
※出典 https://unikk-antiques.com/32919/
そして「ニッパーくん」にはなんと子供が!
あまり日本ではお目にかかれませんが、1991年から「ニッパーくん」の他に「チッパー(chipper)」と呼ばれる仔犬も加わっているんですねー。
ニッパーといえば、ワイアーを切るのもニッパーですが、その小型を「チッパー」と名付けた商品もあります。
→トップ(TOP) ステンレスミニニッパ チッパー TP-100
大きなニッパーと小さなチッパー。
「ニッパーくんとチッパーくん」の関係そのままですね。
Nipper and Chipper 動画
なんと、「ニッパーくんとチッパーくん」が宇宙に行きます!
彼は兄弟と約8年間しあわせに暮らした後、1895年に息を引き取りました。
ニッパーくんは生まれはイギリスのブリストルなんですが、ロンドンの南部にある行政区・キングストン・アポン・テムズに埋葬されました。
埋葬場所は今はロイズ銀行になっていて直接見ることはできませんが、銀行には記念のプレートが展示されているんですねー。
「His Master’s Voice」の絵が描かれたのがもう1世紀以上前で、その間ずっと我々はあのロゴに接してきたので、「His Master’s Voice」を元ネタにしたパロディは枚挙にいとまがないんですね。
更に言えば、オリジナルは感動的なエピソードなんですが「His Master’s Voice」ってなんかオーソンウェルズの「1984」のビッグブラザー的な響きもかんじるじゃないですか。だから政治的な風刺漫画が多いんですが。
ちょっと紹介すると・・
※出典 https://www.deviantart.com/hankai/art/Pug-and-His-Master-s-Voice-374413200
ワイヤーフォックスではなく、「パグ」ですね。でもパグも飼い主の声聴きそうですけどね。
※出典 https://www.pinterest.jp/pin/213358101081842848/?lp=true
これ、集音しちゃうからものすごく聴こえると思います。それだけ飼い主を偲んでるんですね。
「労働者」「86回会議」という文字をみると、労働者の集会をことを表しているのでしょうが、あまり肯定的な意味ではないですよね。
※出典 http://www.original-political-cartoon.com/cartoon-gallery/buy/his-masters-voice/3548/
マスター(=政府)からうるさく納税を言われる市民でしょうか? 日本でも今年消費税10%ですよね・・・。
で、結局死ぬまで、死んでも「マスター」の声を聴く羽目に?
※出典 http://www.thepaepae.com/his-masters-voice/10444/
「ウォレスとグルミット」のグルミットも聴いてます!
※出典 https://www.cartoonstock.com/directory/h/his_master_s_voice.asp
いまやビッグブラザーはウェブサイト。ええ、同意です。
このように1世紀以上にわたって大人気のニッパーくん。
様々なグッズも売られています。
いろんなところのネットショップで購入できますが、代表的なのは公式グッズを扱っている「JVCネットワーク株式会社」のJamaru [ジャマル]というショップの中にあります。
ニッパー オフィシャルストア
一つのショップになっちゃうニッパーくん、すごいですねー!
※ 写真 https://ekizo.mandarake.co.jp/auction/item/itemInfoJa.html?index=301819
ニッパーグッズは公式ショップの「Jamaru」でも手に入るし、アマゾンに出品されるものも多いですね。
ニッパーくん大人気!
でも公式ショップにもアマゾンにもないもの、なんだかわかります?
それは「蓄音機つきの立体」です。
陶器でもなんでも今売っている立体ものって基本的にニッパーくんだけです。
蓄音機がないと、なぜか首をひねっているジャックラッセルとしか受け取れないんですよ。
ならば、と他の蓄音機を買って合わせても、縮尺が合うとは限りませんからね。
いろんな権利関係の問題でしょうね。蓄音機付きのニッパーくんを見つけたらそれは買いですよ!